今回は映画『ダンサーインparis』の解釈・感想です。ところで、唐突ですが卒業シーズンですね!学生で最高学年の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
何もなかった学生生活という方もいらっしゃるかもしれませんが、ここまで続けてこられたということが1つの功績でもあると僕は思っています。
なので、がんばった人もそうでなかった人もここまでお疲れ様でした。これからの新生活、自分にとって居心地の良い場所で楽しんでくださいね。
印象的な色
さて、『ダンサーインparis』の主人公エリーズもある意味、これまでの生き方からの卒業を迫られていましたよね。
そんな物語の中で、ある象徴的な色がありました。それは、赤色です。赤色がこの作品にどのような効果をもたらしていたか、今回は『ダンサーインパリParis』における3つの赤に注目していきます。
話の内容どんなだったっけ?という方は前回の記事をご覧ください。
それではいきましょう。
ここからは一部に作品のネタバレになるような内容を含みます。そのため、鑑賞後に読んでいただくことを推奨します。
『ダンサーインparis』における赤色について
最初の赤
最初の場面、バレー団のエリーズが舞台に立つ直前、裏側の照明は赤色でした。そして彼女は赤色の上着を羽織っていた。
この赤には一体どういう意味があったのか。それはこの後の出来事がヒントになっています。
この後、エリーズは公演中に同じバレエ団の恋人の浮気現場を目撃してしまいます。さらにその動揺からか、ダンス中に着地を失敗。足を負傷してしまうという不幸に見舞われる。
つまり、ここでの赤色の意味とは、おそらくこれから彼女に良くないこと、嫌なことが起こる「警告・危険の赤」というふうに考えることができるのではないでしょうか。
現にその象徴的な赤色が使われた後に、先ほど述べた2つの悲劇が彼女に降りかかります。
中盤の赤
ブルゴーニュ地方へ向かうエリーズ
そして2つ目の赤。今後バレエができなくなるかもしれない。負傷してしまったエリーズは、友人の紹介でブルゴーニュ地方で料理のアシスタントのアルバイトをすることになります。
その時に彼女が着ていたのが赤色のニットでしたね。このときのエリーズは何かモヤモヤを抱えているような、迷っているような表情をしているのがとても印象的です。じゃあこの時の赤はどういう意味があったのでしょうか。
身体に不都合が生じた彼女。今までの自分の経験が通用しない世界。これからどうやって生きていけばいいのか。彼女は自分の感情や考えをうまく整合できずにいる。
ただそれでも踊ることへの情熱や熱意というものは彼女の中に。ただそれをどう発散したらいいのか、どう表現したらいいのかわからない。
そんな今の彼女の心の中の状態を、あの赤色は表しているのではないでしょうか。
コンテンポラリーダンスとの出会い
特に印象に残るのは、このアルバイト先で出会うコンテンポラリーダンスのメンバーにダンスの相手役を頼まれたとき。
踊るのは、演じるのは、死体のような役。まさに死体のように身体を動かさず、相手に身をまかせるエリーズ。
その時に身につけているニットの赤色は、身体の様子とは対照的な鮮明な色彩。彼女の身体と心の様子を示しているようでした。
また厳密に赤色では無いのですが、アルバイト先は芸術家の集う宿泊施設のようなところ。そこで彼女はたびたび夜中に目を覚まします。
その時にベッドの横にある照明をつける。それが暖色系のような感じの灯りで、これもまた彼女の心の中が常に何かでうごめいているような、そんな印象を与えます。
目覚めた彼女はすぐには眠れず、少しずつ自分の身体を動かし始める。
その後、エリーズは徐々に自身の身体と心のバランスを整え、コンテンポラリーダンスのメンバーの一員になります。
最後の赤
父親との関係
そして3つ目。これは最後の場面ですね。コンテンポラリーダンスのメンバーになったエリーズ。
初めての公演を終えた後、赤いニットを着た彼女が父親の元へ向かうと、父親は何かを彼女に話し、そして彼女を抱きしめます。
この2人の様子は遠くから映されているので、一体何を言っているのか、どんな表情なのか、読み取れません。そんな2人を赤い照明が照らしている。
少しこれまでの2人について振り返ってみましょう。父親はこれまでエリーズのバレエを見ても、何の感慨も抱いていない様子でした。
また以前エリーズが父親に自分は愛してるって言ってもらったことがないと伝えたときも、彼はあまりピンときていません。
そんな彼がエリーズのコンテンポラリーダンスを見たときには思わず、涙を流していましたね。なぜなのでしょう。これはこのダンスの本質によるものかもしれません。
コンテンポラリーダンスとは
時は少し戻って、アルバイト先からパリに帰ったエリーズは、バレエ関係の友人と食事を共にします。
この時の会話の中で、その友人に彼女のコンテンポラリーダンスに対する思いをバレエと比較する形で語っていました。
バレエは理想や夢の中を描く、天を目指すようなもの。それに対して、コンテンポラリーダンスは動物的で、地面との関係がリアルなもの。
つまり、踊る人の本質がむき出しになるということでしょうか。
このダンス観から父親の涙のわけを考えるとそれは、彼がエリーズのコンテンポラリーダンスを通して彼女のむき出しの感情に触れた、本物の彼女を見た、からだといえるかもしれません。
逆に言うと、父親はこれまでちゃんとエリーズを見てこなかった。そのことにも彼は気づき、最後、娘に言葉を贈り、抱擁したのでしょう。彼女もそれを受け入れている。
つまりここでは新しい親子関係の始まりが描かれているといえるかもしれません。そして、その象徴として2人を照らしていたのがあの赤い照明です。
第2の人生のはじまり
エリーズは父親との抱擁後、ダンスメンバーと言葉を交わし1人で歩きはじめる。この時、彼女は自分の第2の人生が始まったことを確信します。
辺りは夜。講演会場の赤い照明が人々や濡れた地面を照らしています。エリーズはもう1度ダンスメンバーと合流し、今日の講演の熱気がまだ身体に残っているかのようにみんなで踊りはじめる。とてもいい場面でしたね。
最後の赤の意味は何か。それは誕生の赤。新しい親子関係の誕生、そして彼女の新しい人生の始まりとしての。
もちろんただ話の展開を追っているだけでも、こうしたことは読み取れるかもしれませんが、この作品では色に注目してみると、それがさらにより豊かに、より強く、より効果的に伝わるような表現になっていたと思います。
コース料理のような作品!
1番面白かった場面
ほんとに序盤ですね。エリーズが足を負傷して友人からアルバイトを紹介されます。友人はサブリナだったかな?で、紹介されたのがモデルのバイトでした。
場所が結構すごくて宮殿みたいなところで、花嫁衣装を着た人が、花婿さんでしょうかね、男性は割とおじさんなんですけど、その男性と2人の写真を撮るんです。
その時に女性モデルは3人いて、エリーズとサブリナとあともう1人、そのもう1人の女性が先の男性とカメラマンに写真を撮られている場面。
その女性に対して、跪いて男性を見上げるようなポーズをとりなさい、とカメラマン。
そしたらそこでサブリナがかちんときて、いまどき、そんなポーズとらせるなんてどういうつもり?と。言われたカメラマンもそれに反論。撮影現場の雰囲気は最悪に。
それでも、サブリナはカメラマンを馬鹿にするなと罵り続け、結局エリーズとサブリナはここにはいられないとばかりに、2人でドレス衣装のまま、豪華な宮殿の廊下を笑顔で手を繋ぎながら走っていくという、この場面がすごく爽快で笑えてよかったです。
全体の印象
全体的にすごくバランスの良い作品だと思いました。
それこそ何かのコース料理のように前菜があって、スープがあってメインがあって、最後おいしいデザートがあってみたいに、人生の酸いも甘いもバランスよくちりばめられていて、
だけどその根底にはしっかりユーモアもあって、こういう風なバランスで作品を作り上げるのはすごく難しそうなんですけど、それをちゃんと丁寧にされていたのでほんとにすごいなぁと思いました。
また、体の動きを使ったりとか顔の表情だったりとかシチュエーションであったりとか言葉がわからなくてもクスっと笑えるようなものが多くて、そこもすごく好感が持てましたね。
今回は映画『ダンサーインparis』の解釈・感想について綴りました。次回は映画『LALALAND』を扱う予定です。以下に「次に鑑賞するなら」を並べてありますので、よかったらご覧くださいませ。
次に鑑賞するなら
『Artiste 1』さえども太郎(著) (BUNCH COMICS)
こんな方におすすめかも
- 何かを始めるきっかけが欲しい。
- 悩むエリーズに共感した。
- パリの街並み、いい!
『幸せへのセンサー』吉本ばなな(著)Audible
こんな方におすすめかも
- 何だか行き詰っている。
- ちょっと他の人の意見も聞いてみたい。
- 幸せとは?
※下記リンクから『幸せへのセンサー』で検索するとサンプルが試聴できます。
「トブヨウニ」 吉井和哉『18』収録
こんな方におすすめかも
- 0か100かで考えがち。
- 一歩踏み出したい。
- 落ち込むエリーズに共感した。
Official髭男dism – SOULSOUP
こんな方におすすめかも
- 酸いも甘いも、それが私の生き方だから。