劇場版『きのう何食べた?』ケンジとシロさんのお母さんについて

本記事は一部に作品のネタバレになるような内容を含みます。そのため、鑑賞後に読んでいただくことを推奨します。

作品情報

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きのう何食べた?

〈スタッフ〉

  • 監督:中江和仁
  • 原作:よしながふみ
  • 脚本:安達奈緒子

〈キャスト〉

  • 筧史郎:西島秀俊
  • 矢吹健二:内野聖陽
  • 筧久栄:梶芽衣子

シロさんのお母さんとケンジについて

物語の終盤、筧史郎(以下:シロさん)と筧久栄(以下:お母さん)、そしてシロさんと矢吹賢二(以下:ケンジ)のそれぞれの場面が良かったですよね。

前半は、作風自体は明るいのですが、随所に登場人物が痛みを持つ場面がありました。まずはお母さんがケンジを拒絶、それに対して、ケンジも酷く傷ついていました。シロさんは怒りも交えながら。

にもかかわらず、最後にはお母さんはシロさんに自分の家族を大事にするように伝え、ケンジもまたシロさんに、今まで以上にご両親と仲良くしてほしいと言っています。シロさんを通じてお母さんとケンジがお互いを思い合っていました。

どこかモヤモヤを抱えていた登場人物の気持ちが、掬われた感じがありましたよね。本当に素敵でした。ではなぜ、最初の場面では拒絶したり、傷ついたりしていた二人が、お互いを思いやることができたのでしょうか。

シロさんの言動

ケンジに対して

©️2021 劇場版「きのう何食べた?」製作委員会 ©️よしながふみ/講談社

それはシロさんが二人とどう関わっていったかがポイントになるでしょう。

まずはケンジに対してです。先のお母さんの発言を聞いて傷ついたケンジに対して、シロさんはある行動に出ます。それは、毎年お正月にしていた実家への帰省をやめる、というものでした。

そしてシロさんは帰省しないことをケンジに伝えましたが、その時のケンジの表情がとても印象的でしたね。

つまり、シロさんはきちんと、傷ついたケンジの気持ちに寄り添い、自分が今できることを行ったわけです。

もし、序盤のお詫び旅行でコトを済ませていたら、物語の終盤、ケンジはあの眼差しで、両親と仲良くしてほしいと言えなかったかもしれません。

シロさんのお母さんに対して

次はシロさんのお母さんです。お正月に実家へは帰らないことを決めた後の、ある日のこと。シロさんは、肉団子の作り方を教わりに、何でもない日に実家に行きます。

一緒に肉団子を作りながら、お母さんにある話をしました。ご近所さんのお孫さんとシロさんのお父さんの名前が同じだったということ。そして、自分はそれが嬉しかったとお母さんに伝えました。

そのとき、お母さんはシロさんのほうを見ながら、何かを察するような表情をします。おそらくこの時に、シロさんが自分たちのことを気づかってくれている、ということを感じたのでしょう。

そして、このタイミングで次の台詞です。

「これからは、あなたはあなたの家族を一番大事にしてね」

つまり、シロさんのご両親のことを気づかった言動が、お母さんに伝わり、お母さんもまた自然に二人を気づかう言葉を発せたのでしょう。

2人の思いやりの理由とまとめ

©️2021劇場版「きのう何食べた?」製作委員会 ©️よしながふみ/講談社

なぜシロさんのお母さんとケンジはお互いを思いやることができたのか。それは、シロさんが、ケンジとお母さんとしっかり向き合ったからではないでしょうか。

二人の気持ちに寄り添った行動をとり、言葉を伝えたからこそ、ケンジとお母さんもそれぞれ素直にお互いを思いやる気持ちを持つことができたのでしょう。

すごく温かな、優しい気持ちになれる作品でした。でも常に登場人物がハッピーなわけではなかった。ときに辛くなったり傷ついたりもしています。しかし気づけば、それぞれの心に温かな優しい気持ちの明かりが灯っている。

それはひとりひとりがひとりひとりと、態度で示して、言葉を尽くして関わり合ったからでしょう。この作品を通して、大事な人をどうしたら大事にできるか、どう関わり合っていったらいいか、その「付き合い方」のひとつを学ぶことができたように思います。

音声版

次に鑑賞するなら

楽曲「やさしい気持ちで」Superfly

【おすすめポイント】

  • 歌詞が映画の内容とリンクしている気がします。

漫画:よしながふみ『きのう何食べた?』

【おすすめポイント】

  • 原作の良さも必見。

ドラマ「きのう何食べた?season2」

【おすすめポイント】

  • 映画の続きが観られる。