漫画「和山やま『ファミレス行こ。』KADOKAWA」(あらすじ・感想・考察)マサノリは珍しい登場人物?

音声版

作品紹介とおすすめポイント

ひとこと作品紹介

あの夏から約4年、聡実と狂児、2人の縁は再びめぐりはじめる。

こんな人におすすめかも

謎好き。言葉にしないもどかしい関係。大学生が主人公。ちょこちょこ笑える。結局どう思っているの?あれの意味は?

感想と考察

ここからは一部に作品のネタバレになるような内容を含みます。そのため、鑑賞後に読んでいただくことを推奨します。

感想

面白かったですね。漫画家の高橋留美子さんは『うる星やつら』のあたる君に絶対「好きだ」とは言わせないっていうふうに決めてたと雑誌インタビューで答えられてました1が、今作の2人はまさにそんな感じです。

つまり2人の本心が読めない状況で話が進んでいくので、もー謎謎謎ですね。一体聡実くんと狂児が何をどこまで考えているのか頭の中は疑問や推測でいっぱい。それは他の登場人物にも言えることでしたね。

特にあの女性、宇佐純子なんかはもう謎多き人ですね。まず電話に出ないなぜなんだっていうのと後は狂児が言ってましたけど、靴きれいなのにしてくださいって、つまり靴が汚れていると。『ファミレス行こ。』では割とこのシミとか汚れとかが象徴的に使われてたりもします。ファミレスの壁の絵画に聡実くんがつけてしまったシミであったり、ある男2人に汚れがついていたりとか、だからさっきの女性のあの靴の汚れの意味は何なんだって言うところがまた気になるところですよね。こんな風に、もういくらでもあれがどうなの?これはどうなの?っていうところがありましたね。

あと描写の妙ですね。あの同じ動きのものを重ねるっていう手法だったりとか、Aの電話が鳴ってる場面があり、そこに重ねるようにBの電話が鳴るシーンが始まるとかそういうのが多かった気もしますね。靴についての話題が出たと思ったら、次の場面でまたちょっと違った形で靴に触れる場面が出てきたりとかそうやってちょっと場面場面をつなぐときに重なる描写、物とか音とかそういうのもあって、つなぎ方も面白いなぁと。

あとは聡実くんと狂児、2人の表情にも注目でした。彼らがどんなときに誰に対してどのような表情をするかで、また読み手としても色んな思いが巡りますね。

マサノリは珍しい登場人物か?

漫画の中で漫画家キャラというのは何人か思い浮かぶんですけど、例えば『月刊少女野崎くん』2の野崎くん、後は『ハイスコア』3のミッキーこと喜多川幹彦など、で、大体僕のイメージなんですけど、コメディ要素のある漫画に出てくる漫画家キャラっていうのはその本人と作風にギャップがあるってことが多いんですよね。

本人が周囲の人に見せている姿と、実際に描いている作品っていうのはかけ離れたものになっている。例えば、野崎くんは、普段クールな感じの男子高校生ですが、描いている漫画は『恋しよっ♡』で、もう純度100%の少女漫画、そして作者の名前も夢野咲子と作風に沿った作者名を名乗っています。

これはハイスコアのミッキーも一緒ですね。タイトルは『オヤジ女子校生☆』で主人公はヒゲの入った女子高生でちょっと突飛な感じがしますけど、ただジャンルとしては少女漫画で、作者の名前もマドモアゼルゆみこで女性として活動している。でも、本人はいたって、まぁフツーの男子高校生。

それに対してマサノリはですよ。どうしてるかっていうと、マサノリっていうのはそもそも組長の息子で、麗子という名の猫を飼っていました。ある日、漫画家になる、と家を飛び出し、狂児にだけ、それを伝えて上京してきたんです。そして、現在どういう漫画を描いているかっていうと、『Neco Neco Panic』という猫のヤクザの抗争を描いたものですね。彼の風貌は芸人のクロちゃんのようなフォルムで、だいたいいつもお酒を呑んでいます。

で、マサノリという登場人物の何が珍しいか。それは本人と作風が割とマッチしてるというところです。ちなみに作者名はどうかというと、はい北条麗子という名前で活動していて、コミックスの作者の一言欄みたいなところには、ピラティスやってます、みたいなことが書いてあって、ピラティス、、、つまりマサノリの場合は先の2人と違って、本人と作風が割と一致していて、作者名・作者像がそれらとはちょっとかけ離れているということがわかります。このように、マサノリはこれまでの漫画家キャラとはちょっと違った設定の登場人物として描かれていますよね。

ちなみになぜマサノリに注目したかというと、彼は聡実くんがシミをつけた絵画に落書きをした人物だからです。

あの絵画に描かれていたものを覚えていますか?そう、2人の天使です。どういうことか?この絵画はもしかすると、聡実くんと狂児を象徴しているのではないでしょうか。

『カラオケ行こ!』のコミックスのカバーを取るとモナリザに模した聡実くんを見ることができます。そのような表現があったので、今回の『ファミレス行こ。』でも、絵画には何か意味があるのではないかと。

つまり聡実くんが絵画にシミをつけたことで、2人の関係の翳りのようなものを象徴しているように見える。そんな絵画に落書きをした人物、それがマサノリだったのです。ここから、もしかしたらこの物語の重要なキーパーソンになるんじゃないのかなというふうに思いました。

どうでしょう?いずれにしても結末が気になるし、次巻が楽しみですね!

次に鑑賞するなら

テレビドラマ「MIU404」

おすすめポイント
  • 和山やま作品に関わりのある星野源、綾野剛の2人が主演
  • 実写版「カラオケ行こ!」の野木さんがこちらの脚本も担当

宇多田ヒカル「One Last Kiss」

おすすめポイント
  • 下巻の結末がどうなっても、彼は「忘れられない人」

漫画「井上雄彦『スラムダンク』集英社」

おすすめポイント
  • 漫画内の登場人物のTシャツが気になった方、『SLUM DUNK』の小暮さんに注目してください!
  1. ダ・ヴィンチweb 『うる星やつら』諸星あたるには「好きだ」と絶対に言わせないと決めていた! 高橋留美子先生に聞いた“歴代人気キャラクター”にまつわる22の質問 https://ddnavi.com/interview/965989/a/ ↩︎
  2. 作:椿いづみ 出版社:スクウェア・エニックス ・少女漫画家男子高校生コメディ4コマ漫画 ↩︎
  3. 作:津山ちなみ 出版社:集英社 ・学園ギャグ4コマ漫画 ↩︎